レビュー
数学者が一般読者向けに数学の面白さを解説した本はたくさんある。本書の他の書籍にない特徴は、話題の取り合わせが巧みなことである。数学好きの人が本書を手に取れば、既に知っている話題を、著者が独特な解説を試みていることを楽しめるだろう。タイトルの「数学の遺伝子」が表しているように、数学は生活のいろいろな面に入り込んでいる。時代に応じて数学が社会に使われている場面は異なるので、その時代の読者が関心を持つ話題を取り入れた解説書が必要だ。 本書は全体を4つの部分、n進法、分数、無理数、虚数に分けて、巧みに解説している。最初は、コンピュータ時代にふさわしく、10進数以外の数え方として2進数や8進数の特徴を説明し、素数とRSA暗号の紹介まで一気に概略を与えている。これ以降は、常に社会生活に関する話題を取り入れて解説がなされている。分数を扱っている章では、分数の四則演算の説明に面積を使ったすばらしい解説が行われている。また、確率については随所で取り入れられており、特に条件付き確率の解説は、誤解しやすい概念や社会生活とのつながりを強調している。物理学との関わり合いについての解説も多く、最後は、量子力学と量子コンピュータを扱っている。 読者は、どの章を読んでも、こんな所にも数学が関係しているのかという新鮮な驚きを感ずるだろう。本書を、中学生や高校生の副読本として、授業に取り入れるのも面白いと思う。(村藤俊行)
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