レビュー
視野の上下が逆転する特殊なメガネがある。「逆さメガネ」だ。人間の知覚や認知を調べる実験道具で、このメガネをかけてしばらく慣らせば、普通に行動できるようになるという。それほど、人間の脳の適応力は大きいわけだが、この「逆さメガネ」をかけて世の中を、特に教育の世界をのぞいてみたのが本書だ。逆さメガネをかけるのは、『唯脳論』、『バカの壁』などで独自の知の地平を切り開く解剖学の第一人者、養老孟司である。 著者はいう。人間は刻々と変わっている。ところが、いまの社会は「変わらない私」を前提にしている。「変わらない私」と思い込むのは、いまの世の中の見方をそのまま受け入れているからだ。だから、世の中の大勢の見方と反対を見ることができる「逆さメガネ」をかけなければ、本当の姿は見えてこない、と。そして、人が変わらなくなった社会で、最も苦労しているのが子どもたちだと指摘する。なぜなら、子どもは一番速やかに変化する人たちだからである。そのことに気付かなければ、教育の本質を見失うことになる。 ではなぜ、私たちは「変わらない私」と思い込むようになったのか。原因は都市化社会にあった。都市的合理性、多数決による社会常識が、いつの間にか「逆さメガネ」になっていたのだ。著者は本書で、「あまり一つの見方でこり固まってしまうと危険だということです。ときどき、私のように『逆さメガネ』で見る視点を持ってくださいよ」とメッセージを送っている。(清水英孝)
カスタマーレビュー
語り口の上手さはさすが「バカの壁」の記録的大ヒットを受け、各出版社は2匹目のドジョウを狙って氏の著書を先を争って出版した。 これもその一冊である。 この本のテーマは教育論。 氏の主張への賛否はさておき、我々の常識を小気味よく破壊していく話の展開はさすがである。 読んでいて実に痛快だ。 「バカの壁」と同じく、氏が語った内容を別のライターが書き起こすという体裁をとっているため、講演を聴いているようで非常に読みやすい。 こうしたやり方を「新書の品格を落とす」「堕落だ」と悪しざまに言う人もいるが、氏の語り口の上手さを生かすための話芸の一つとして、これもありなのではないかと思う。 しかし、これだけハイペースで著書を出している(ある意味、出版社に「出させられている」のだろうが)弊害として、他の著書と重複したエピソードがあちこちに見られるのはいただけない。 いくら多才な方であっても、インプットの何倍ものアウトプットをしようとすれば内容が薄味になってしまうのは致し方ないということだろう。 願わくば、次の著作はもう少し考えを煮詰めた上で出してもらいたい。結論はありません本書は、まえがきにあるとおり、教育という題材から「ものの見方」を 考えるものです。ゆえに教育がどうあるべきか、を指し示すことも 結論付けることもありません。 たとえば、『教育』というものでも、 『論』を持ち出し理屈を組み立てなければならない、 結果、正しい、間違いがある、そう思うこと、 とすることが本質ではないのではないか、 と疑問符をあげているだけです。そういう見方もある。そういう表現です。 養老氏の体験をもとに説明しているので、 はじめて養老モノを読む人は「バカの壁」よりもこちらのほうが わかりやすいかもしれません。 本書は、抽象的概念を話し言葉で記述しキレが悪い感もあります。 養老書をすでに詳しい方は、同氏が言いたいことがうまく表現しにくい面や、 考え方の歴史に触れて、楽しめるかもしれません。 教育に詳しい方が、教育書として読むには、 あまりにも表面的、抽象的な内容となりますが、 あくまで本書は教育の指南書ではなく「逆さメガネ」の本です。疑うと言う事。世の中の事に疑いだしたら、それはもうきりがないはずです。著者はそんな疑問を結構大きなテーマにして書いています。逆さメガネをかけてみなきゃ、本当のところはわからない。そういっているのです。 内容はさほど難しくはありません。自然と身体の印象が強かったかな。ただ、考えると結構深みにはまりますし、色々納得できる事もあります。例えば、男女の教育について。男性はおとなしく、女性は活発と言うのが今の世の中の感じかと思われます。ですが教育上は女性なのだからおしとやかに、男性なのだから元気よくなどと言われております。コレはもともと逆だったので、教育で変えなければいけなかった。ほおっておくと、どんどん女性が活発になり、男性は静かになってしまう。それを教育でかえた。などなど。養老さんの話は、言われてみればそうだ!と言う事なのですが、まず私たちの気が付かない視点からかかれています。それを学ぶと言う事はとても素晴らしい事です。是非購入を勧めます。ですが、著者の本を何冊も読まれた方には、内容が重複している事もあるかと思われます。それに、話口調なので2?3時間でよみきれるかと。 時には、逆の視点から見る事も大切ですよ。
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