カスタマーレビュー
音楽を言葉で表現するということ 著者は音楽業界ではなく、人文科学系の方のようですが、これほど豊かな言葉で音楽について語った本にはお目にかかったことがありません。ここには音楽批評にありがちなステロタイプの表現がない代わりに、ステロタイプの音楽批評に対する厳しい批判があります。 おそらく、小沢征爾について論述した本の中では、最も核心をついたものであるとともに、日本人の書いた音楽評論として歴史に残る画期的な著作と思いました。眼から鱗が落ちたとはこのことです。小沢さんは幸せです。 個人的にはベートーヴェンとショスタコビッチのところが面白かった。いい音楽を聴いたような読後感でした。刺激的面白くて刺激的でした。 たまに行くコンサートで、なぜ小沢さんに引かれるのか、よく分かりました。孤独な戦いの軌跡これは小沢征爾を題材とした日本社会並びに文化論です。ここで取り上げられている小沢は、音楽における文化的平和的な略奪行為でもある孤独な戦いを、巨大な伝統を持つ西洋に対して、何十年にもわたって、日本人として、西洋のグラウンドで繰り広げている孤独な日本の文明の象徴です。小沢が欧州やアメリカで引き起こす批判こそ、彼が日本人として対等の立場で戦いを繰り広げている確かな証拠なわけです。にもかかわらず、それを援用して繰り広げられる国内の音楽評論家の小沢批判には、著者はそこにいつもながらの無知とコンプレックスと嫉妬を発見します。著者が一番懸念するの”音楽に国境はない”とする、無国籍気取りの演奏家です。これこそ、”からごころ”がはらむグロテスク(おぞましさ)を直視しない姿ということになるわけですです。過去におけるショスタコービッチの日本での受容のように、政治的にも音楽的にもグロテスクのきわみとなるわけです。小沢という稀有な国際的なパーソナリティを通して、文明の持つ普遍と特殊、伝統と革新、統一と法則、自然と共存などの問題についての新しい考えるヒントを与えてくれる本です。
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